225. ”ふるさと金沢” 再発見
【2022年1月28日配信】
校歌
若林 忠司
2015年3月24日、北陸新幹線が開
業する。東京・金沢間が約二時間半で結ば
れる。時代は大きく変わり、新幹線が「金
沢の魅力」を運ぶ。
金沢駅を降りると、巨大なガラス張りの
「もてなしドーム」と、正面の木造り「鼓
門」が目に飛び込んでくる。2011年に
はアメリカ旅行雑誌で「世界で最も美しい
駅」に選ばれる。地元に住む者にとって、
金沢の知名度が高まることは喜ばしいこと
である。
ガイドブック、雑誌、観光マップやパン
フレット、案内板などに観光スポットが紹
介されている。これらのほかに、金沢の魅
力を探るために「校歌」に焦点を絞り、別
の角度から光を当ててみたい。
「山」といえば「川」。ある言葉から、
それに関係するほかのものを想い浮かべる
ことを連想という。山や川は自然の代表。
私には校歌が連想される。
歌詞の中にはどのような自然が詠まれて
いるのだろうか。青春の一ページを飾った
学び舎の校歌を思い出すのは、若き日のア
ルバムを見るのに似た感じがする。
金沢の山といえば医王山、卯辰山。川と
いえば男川と呼ばれる犀川、女川と呼ばれ
る浅野川。これらの自然が校歌の中でどの
程度登場するのかを知るのは、単なる物好
きやセンチメンタリズムでなく、むしろ大
切なことだと思う。
少子化が進む現在、学校の統廃合が行わ
れ、新たな学校が誕生する。かつて金沢市
内には小中学校が八十五校あった。このう
ち六十七校の校歌に目を通したことがあっ
た。
校歌には建学の精神、教育方針や地域の
自然が織り込まれているものが多い。すっ
かり忘れてしまったが、校歌と聞くと、今
は遠い昔の小中学校の頃を思い出す。また
教師として務めていた学校がよみがえって
くる。
それぞれ格調高い歌詞で、作詞者の文学
的センスに驚かされた。校歌は永久(とわ)
に残る名作、名曲である。歌詞に出てくる
自然などの言葉に注目した。
最も多いのが、「浅野川」。これに「医
王山」「犀川」「白山」と続いている。そ
の他、「日本海」「河北潟」「兼六園」な
どが見られた。これらの言葉は学校の環境、
気風を表す。
あらためて、わが家の近くにある学校の
校歌に目を通した。私の母校・金沢市立小
将町中学校の校歌は、室生犀星作詞・山田
耕筰作曲。
歌いだしの「朝はやき町の景色にやまか
わをうしろに」は、かろうじて覚えている
が、今はほとんど忘れてしまった。図書館
で見つけた資料で校歌を思い出す。古いア
ルバムの記憶がよみがえり、中学生時代に
もどった。
朝はやき
町の景色に
やまかはをうしろに
甍は見ゆる。
わが母校の
おしへみちびきの
あさつゆ清き道のべに
ひとはひとよりまなび
ひとはひとをみちびく。
ありがたきかな
みちびきの奧處(おくか)に
やまかはの榮(はえ)を見ひでむ
ふるさとに
生ひたちたるわれら
わが母校よ
友よ
よろこびをささげむ。
よろこびをうたはなむ。
小将町中学校のすぐ近くにあった兼六中
学校は、歩いて一分ほどのところに建って
いた。現在の兼六中の校舎は1962年に
兼六園下から徒歩約二十分のところの浅野
川近くに移転したが、かつて両校の間には
プールがあった。そのプールを水泳の時間
には共同で使っていたことが思い出され、
懐かしい過去が呼びもどってくる。
兼六小学校は、味噌蔵町小学校と材木町
小学校が統合され、2016年4月に開校、
兼六園から徒歩約三分のところにある。校
名は兼六中学校と同じく兼六園から採った
ものであることが分かる。
谷川俊太郎作詞・谷川賢作作曲の兼六小
学校の校歌に目を通すと、「みみをすまし
てむかしのひとのことばをきこう」と、ひ
らがなで書かれている。歌詞には金沢に関
する言葉は用いられずに、「みみ」「め」
「こころ」や「むかし」「いまのせかい」
「うちゅうのむげん」といった言葉が使わ
れている。世が進むにつれ、校歌も変わる。
時代の移り変わりを感じる。
みみを すまして
むかしのひとの ことばをきこう
めを みひらいて
いまのせかいを みつめよう
ほんに したしみ
うたを たのしみ
うちゅうのむげんに こころをひらく
あるいて いこう
みちがなくても いっぽいっぽ
ちへいをめざし
はげましあって ともだちと
しなやかなこころ すこやかなからだ
ちきゅうのみらいを まもっていこう
けんろくしょうの わたしたち
味噌蔵町小学校の校歌を見ると、わが家
のすぐ近くに見える「兼六の園」「浅野川」
「医王の山」「向山(むこうやま)」の山
川が詠まれている。材木町小学校の校歌に
は、「白山」「浅野の流れ」「山川」とい
う言葉が見られる。この両校の校歌は、ふ
るさとの自然の薫りが漂ってくる。ふるさ
とを愛し誇りに思う人々の心は、どの地方
でも同じである。
だれにでも生まれ育った土地 ”ふるさと”
がある。ふるさとの魅力について調べるこ
とは、郷土を知り郷土愛を育むことになる。
歴史や伝統文化、豊かな自然を表す言葉を
通して「金沢再発見」となった。
この原稿を書き進めているとき、新聞、
テレビが新型コロナウイルスの感染状況を
伝えていて、全国に深い影を落としていた。
県都の玄関口・金沢駅、市中心部や観光ス
ポットにも人影が減り、閑散としている。
時間が止まったような、異様な街の姿に自
分の目を疑った。このような光景をだれが
想像しただろうか。
〈参考〉
富山県氷見市立灘浦小学校校歌
詩 灘浦小学校2011年度6年生
曲 友井賢太郎
海の向こうの 立山に
元気な声が こだまする
大きな夢を いだきつつ
体きたえて すこやかに
明るく 共に歩もうよ
われら 灘浦小学生
つまま輝く ふる里に
優しい笑顔 あふれてる
先人の知恵 学びつつ
心豊かに はつらつと
なかよく 共に励もうよ
われら 灘浦小学生
校歌合唱 – 灘浦小学生
石川県白山市立美川小学校校歌
詩 北村 喜八
曲 飯田 信夫
北の荒磯に手取川
注ぎて波の立つあたり
松のみどりにかこまれて
学ぶ楽しきわが母校
峰の白雪朝夕に
あおぐや清き白山に
理想の夢をはぐくみて
いざやみがかん人の道
古き名もよし本吉に
潮のひびき楽として
今日も元気に友どちと
いざやはげまんともどもに
当講座記事NO.84、115より
新潟県立高田高校校歌
(1904年)
詩 秋田 實
曲 早川 喜左衛門
妙高山は峨々として
千古の白雪天をつき
日本海は汪々と
万里の波濤空をうつ
山水霊なる越の国
学びの友垣一千余
学と徳とに身をたてて
期するは国家のまき柱
砂(いさご)の粒もつもりては
みそらに高き妙高山
水の雫もたたへては
そこひも知らぬ日本海
思えば昔霜台公
能信越をきりなびけ
七尾城頭月きよく
戦勝の宴たけなわに
矛横たえてうたいてし
威風ぞ今に芳しき
治まる御代の我等には
仁義の兜知恵の弓
百折不撓の勇気あり
堅忍不抜の剣あり
心にむらがる煩悩の
悪魔を払って進みゆけ
小善とても勉むべし
小悪とても犯すなよ
なるとならぬは天なれど
唯一筋に彼の岸へ
進むぞ我等の務なる
進むぞ我等の覚悟なる
高高校歌
〈後記〉
当講座のNO.111、104、105、
172-174 にも若林忠司さんの
記事があります。
イラストは正見巖さん(当講座
記事NO.55の記事から)。
〈追記〉
小学校と中学校の校歌が同一
富山市立芝園小学校校歌
富山市立芝園中学校校歌