星の観測記
【2020年12月1日配信 NO.78】
富山大学経済学部2年
谷野 あづさ
流星(観測記その一)
十二月になると、ふたご座の流星群が活動
します。この流星群は、夏に活動するペルセ
ウス座の流星群と同じくらい活発であり、と
ても見ごたえのあるものです。
私の所属する天文同好会でも、十二月の初
めに流星観測がおこなわれました。極大日に
はまだ間がありましたが、その日は北陸にし
ては珍しく空が晴れあがっていたのです。
まず、教養部横の部室に夜の十二時に集合。
ここで先輩の説明をうけた後、ラムカ観測用
の輪と寝袋、観測用紙、懐中電燈、筆記用具、
天文年鑑などを持って出陣。教育学部の屋上
でラムカ観測を開始したのは一時頃でした。
空の状態は素晴らしく良くて、雲が全然な
いのです。四~五等級の星が楽楽見え、南の
中空にオリオン座が輝いてます。ふたご座は
天頂近くにあり、その頭上や足元を流星が飛
びかうのです。
二時頃になって人数は数人になり、ラムカ
観測をしている横で私たち二、三人は寝袋に
くるまってあお向けに寝ころんでグループカ
ウントをはじめました。
このグループカウントで、流星や星の美し
さがわかります。
まわりには自分自身というものと星々しか
ないのです。宇宙という巨大なものと自分と
いう小さなものが接触していることが、なん
とも奇妙で仕方ないのです。
そして、真空の暗い空間にぽっかりと、星
という綺麗な生命体がどうして浮かんでいる
のだろうかと考えてしまうのです。
おそらく、この世界に生命のある宝石があ
ったとしたら、その宝石を大きな槌で細々に
砕いて、バッと宇宙空間にばらまいたものが
星々であり、宝石を砕くときに飛び散る火花
が流星なのです。と、カンカンに冷えきった
体に先輩の買ってきてくれた熱いコーヒーを
流しこみ、星を見上げながら思いました。
観測が終わったのは朝の四時でした。
オリオン、シリウスなど冬の星は西の空に
傾き、しし座やスピカなどの春の星座は東か
ら昇ってきました。地上の季節は冬であるの
に、天界では春になっています。それでもや
はり、星の光は冬の色をしています。冬のギ
ラギラした厳しい色です。しかし、明けの明
星はオレンジ色の暖かい色で輝いていたのが、
印象的でした。
合宿(観測記その二)
時は三月の初め頃、私は本当にこの時期の
北陸の空は大嫌いなのです。夜、ほとんど晴
れないからですが。そして、このことは、三
月七日~十日に行われた「追い出し合宿」で
身にしみたのでした。
午後三時半に合宿場所のお寺に集合。
この時の天気ー晴。
清掃&ミーティングー雪。
日没後、食事中ー雪。
でも!観測準備中ー晴。ただし、少々の雲
あり。
そして九時半頃。観測用具を持ち、雪だる
まみたいにコロコロに着こんで(とても夜は
冷えるので。)出陣。観測場所は近くの農道
です。
観測地にて。下の方の空には雲があります
が、上の空には全然なく、星がせわしくチカ
チカまたたいています。そして各観測班に分
かれて、望遠鏡をのぞいたり双眼鏡で星を追
ったりすること三十分。雪雲が空をおおいだ
したのです。
どんどん星は消え、あちこちから「もう見
えないぞー!」の声。結局、この日は意地の
悪い雪雲と超一流の寒気に追われて退却しま
した。
さて、二日目。
この日は二十七年ぶりに帰ってきたクロン
メリン彗星の観測です。ただ、この彗星は光
度が七等級ほどで、高度も低く、あまり見や
すくありません。すぐに沈んでしまうので、
六時過ぎに出陣。
ところで、この彗星は、西南西の方向、く
じら座の近くにあります。くじら座とは、ミ
ラという変光星以外は三等級以下の星ばかり
であまり明るい星座ではないのです。(私は
星座の形をたどることができないのです。)
このときのやりとり。
「何の星を目印にして探す?」
「変光星のミラだろう」
「今、ミラはあまり明るくないぞ。十一等、
いやもっと明るいか、七等か八等級ぐらいだ
と思う」
つまり、あの暗いくじら座を順にたどって
彗星を探さなくてはならないのです。
とにかく観測。先輩が双眼鏡で、くじら座
の位置を確認している間に望遠鏡を組み立て
ます。まだ西の空は明るく、プレアデスがほ
ぼ真上に浮かんでいます。
そのうち、先輩が双眼鏡の視野にくじら座
の頭部を入れました。双眼鏡でのぞくと真中
に、小さな四角形がゆるい光を放っています。
しかし、望遠鏡で彗星を追いはじめて数分
ほどして、再びあの雪雲が現われ、ずんずん
ずんずん星を呑みこみ、私たちの彗星観測を
も呑みこんでしまったのでした。
この後、夜半に曇っているにもかかわらず
また出陣。望遠鏡を組み立てているうちに、
チラチラと雪が舞いだして、またまた退却。
望遠鏡の運搬と組み立てがうまくなった日で
した。
本当に北陸の冬空がうらめしく、だが、む
しろそのために雪雲の切れ間から見える星が
美しいと感じた合宿だったのです。
シリウスの光さえぎる月明かり
小社発行・『北陸の燈』第4号より
表紙絵 本多千鶴子(金沢錦丘高校1年)
題字 井上 碧山(福岡県北九州市)
イラスト 藤塚 有紀(石川県白山市)