ミニコミ紙「ローカル列車」
【2021年9月30日配信 NO.194】
富山県小矢部市 赤井 武治
ずいぶん大胆なことをやったものである。
平穏無事だったサラリーマンを辞めた中年
男が、田舎町でミニコミ新聞の発行を始め
た。新聞は月二回、一万世帯へバラ撒いて
いる。「清水の舞台からとび降りたと思っ
て」の諺があるが、まさにとび降りてしま
ったのである。もう一人の自分がいて “オ
イ!大丈夫か?この後” といっているのが
聞こえるようだ。
若い時はそうでもなかったが、三十代の
終わりころから四十代になって、何となく
自分の力を試してみたくなった。子どもの
教育費など、家庭生活で一番カネのかかる
時なのに………。
この何となく………がクセモノである。人
生の路線変更に何となく………とは、小学生
並みと笑われても仕方があるまい。堅実で
利口な大多数は、会社が存在するかぎり、
サラリーマンという吊り革にブラ下がり、
迷うことなく目的地(定年駅)まで行くこ
とに専念することだろう。
“四十にして惑わず”--いい言葉である。
小生も若い時から尊び目標にしてきた言葉
の一つである。あゝ、それなのに………惑っ
たのである。しかも四十代も半ばにして。
他から見れば、始末の悪い変わり者にしか
思えないかもしれない。しかし、これでも、
今どきの高校野球の選手に負けない “ひた
むきな精神” の持ち主だと自負してやまな
い。つまり若いのである。
さてミニコミ新聞について書かせてもら
えば、その名は「ローカル列車」という。
地域の情報・くらしのニュースをキャッチ
フレーズに、小矢部市と福岡町(人口=約
49,000人、世帯数=12,000余り) を対象に
したミニコミ紙である。
タブロイド判二頁、前年の五月二十日創
刊、第一・第三日曜日の発行で、部数は一
万部ずつである。内容は地元のホットなニ
ュースをはじめ、人物紹介(今日の顔) ・コ
ラム(時の手帳)・行事紹介(告知板)・
読者の声(お便りコーナー)などを載せて
いる。それと特集記事として、新入社員の
声や、子どもに対する親の心得、健康を考
える老人問題等について取材してまとめて
いる。
「ローカル列車」と名づけた理由は、車
内や駅の待合室での談笑ムード(隣同志)
を紙面化できたら………と思ったのと、隣り
合う小矢部と福岡を「ローカル列車」の紙
面を通して結んでみたかったのである。
記事や広告の取材から整理・発行まで、
現在一人で大奮闘している。十月第一週に
は第十号を数えることになったが、まだま
だヨチヨチ歩きがやっとの拙いものである。
三つの新聞に折り込んで宅配しているが、
フリーペーパーだけに収入源は広告のみ。
ズバリいって苦しい経営である。それでも、
一人の手づくりの新聞に広告を出していた
だけるだけで、感激し、なんともいえない
有り難さがこみあげてくる。往年の鉄腕・
稲尾投手以上に、広告スポンサーの皆さん
は “神様仏様” なのである。
少しずつではあるが、読者の反応が出て
きたことは、何よりも心の支えとなってい
る。取材で多くの方々と出会うが、編集兼
発行人として、自分の顔のみならず、毎日
の行動にも責任をもたねばと自分にいいき
かせている。サラリーマン時代と違った苦
しみや厳しさを覚える反面、それ以上の喜
びある体験も身をもって感じとることもで
きる。
まだまだ試行錯誤のレールを走ることだ
ろうが、地元沿線の皆さま、ミニコミ紙「
ローカル列車」をどうぞよろしく。あなた
の声・あなたの思いを、終着駅である一万
世帯へお届けいたします。
小社発行・『北陸の燈』第4号より
〈参考〉