子供たちの声
【2020年11月16日配信 NO.68】
小川 文人
地震が比較的少ない北陸に生まれ育った僕
が関東に移り住んだ当初は、あまりにも頻繁
な地震に驚かされたものです。真夜中に地震
に見舞われた時には当時住んでいた安アパー
トが今にも崩壊するかと思うほど大きく揺れ
動き、びっくりして飛び起きました。
大きな地震の際には駐車している車が、ま
るでダンスを踊っているかのように、元気よ
く飛び跳ねます。
およそ100年前に起きたという関東大震災
級の大地震が近いうちにまた起きるのではと
皆、心の底では恐れています。
さてその地震の際には要注意の一つの或る
断層に沿って、川が流れていて、川沿いの小
道は僕の散歩コースになっています。
「現代の声」の愛読者の皆様に、最近の「
子供たちの声」をご紹介しましょう。
先日の少し風が強く吹く土曜日、川沿いの
小道を歩んでいましたところ、小学生の兄弟
らしい二人連れが自転車で僕を追い抜いてい
きました。
追い抜いていきつつ、兄が弟に言います。
「ぼくは10年後に死ぬよ」。
まだ幼い弟は問いかけます。
「お兄ちゃんは10年後に60歳になるの?」。
兄は答えます。
「20歳だよ。たぶん自殺するんだよ」。
僕はこのやり取りに、あっと驚いて、声を
かけようとしましたが、兄弟の自転車はもう
橋を渡り、木枯らしの中を去っていきました。
二台の自転車は、落ち葉があとからあとか
ら舞い落ちる木立の中を、みるみる遠ざかっ
ていきます。
僕の住んでいる地域はけっして都市部では
なく、鉄道の駅もない多摩の田舎です。
放課後に、路上で子供たちが遊んでいる所
に歩み寄っていき、
「****はどこかなー?」
と道を尋ねると、中小企業の工場が多く、
皆助け合って生きているからでしょうか、誘
拐など恐れず、案内してくれるくらい子供ら
しい子供たちですが、やはり現代という複雑
な時代がどこかしら影を落としているようで
す。