紙風船
【2020年11月23日配信 NO.75】
米谷 艶子
一
私は大きくて美しい紙風船です
青空高く舞い上る時
どんなに爽快なことだろう
緑の芝生が美しい花々にかざられ
やわらかい陽ざしを浴びて眼下に
見えている
私を追いかける少女の
真剣なまなざし
何と美しい風景だろうか
いつまでも私は舞い上っていたい
ポーン、ポーンと。
ニ
私は大きくて美しい紙風船です
秋も去り冬が来て
今は北風がピューピューと
吹いています
雪も降り出しました
赤い花と緑の葉っぱに
白い雪が積っています
私は冒険がしてみたい
灰のように降る雪の空に
舞い上っていきたい
ポーン、ポーンと。
三
私は大きくて美しい紙風船です
今日はクリスマス
コーヒーの香りが漂ってきます
中央の大きいテーブルには
クリスマスケーキ
ホワイトクリスマスの楽しいひびきが
レコードで鳴らされています
クリスマストリーもあることでしょう
吊るされています銀色の靴
金銀の星 金銀青のモール
赤いサンタクロース 白い綿の雪
何にもまして見事な豆電燈の点滅!
私をここから出しておくれ
天井めがけて舞い上らせておくれ
ポーン、ポーンと。
四
私は大きくて美しい紙風船です
この引出しの中は暗くて
きゅうくつです
早くここから出しておくれ
美味しい外の空気を吸いたい
腹一杯に。早く出しておくれ!
緑の芝生と咲きみだれる花々
早く春よ来ておくれ
やわらかい陽ざしを浴びて
思いきり空へ舞い上りたい
ポーン、ポーンと。
小社発行・『北陸の燈』第3号より
NO.28にも米谷艶子さんの作品掲載