265. 許蘭雪軒のことなど・松陰の真意
【2022年8月22日配信】
秋の気配
打ち水の光のなかに秋の香が
愛知県日進市
飯井 文子
〈参考〉
孤独のことなど - 青空文庫
アジア史上稀にみる女性の詩人・許蘭雪軒
哭子
去年喪愛女 今年喪愛子
哀哀光陵土 雙墳相對起
蕭蕭白楊風 鬼火明松楸
紙錢招汝魂 玄酒奠汝丘
應知弟兄魂 夜夜相追遊
縱有腹中孩 安可冀成長
浪吟黃臺詞 血泣悲呑聲
子供を哭す
去年喪愛女 今年喪愛子
哀哀光陵土 雙墳相對起
蕭蕭白楊風 鬼火明松楸
紙錢招汝魂 玄酒奠汝丘
應知弟兄魂 夜夜相追遊
縱有腹中孩 安可冀成長
浪吟黃臺詞 血泣悲呑聲
子供を哭す
去年は愛しき娘を喪い
今年は愛しき息子を喪った
哀しくて悲しき光陵の土よ
双つの墓が相対して起っている
蕭々たる風は白楊の木に吹き
鬼火が松楸の中で明る
紙銭を燃やし汝の魂を招き
酒注ぎ汝の墓に奠る
兄弟の魂は
夜々相い追うて遊んでいるだろうか
縦しんば腹の中に孩が有るけれど
安んぞ成長するを冀えるだろうか
止めどなく悲しき詞を謳い
血涙を流し悲しみの聲を呑み込むだけだ
李卓吾の思想の影響を受ける
「惺所覆瓿稿」
人の才能というのは身分性別を問わず、
すべての人間に公平に与えられていて、
その才能を十分活用して国を運営する
ためには人材の登用において何の差別
もあってはいけない。
世を動かせる原動力は民にあり、その
中でも自分の意思で世を直そうとする
豪民こそが社会で尊重されるべきであ
る。
野山獄で吉田松陰の心をとらえた思想
李卓吾思想の真髄は童心説にある。
「童」が童子、赤ん坊と言う意味であり、
人間が生まれたままの自然状態である。「童
心」とは偽りのない純真無垢な心、真心を言
う。これは陽明学の「良知」を発展させた先
に李卓吾が到達したものである。李卓吾によ
れば、誰もが持つこの「童心」は人間が成長
して社会生活を営み、文明化されるにつれて、
道理や見聞、知識を得るなど外からもたらさ
れるものによって曇らされ、失われるという。
この思想が危険視されるのは、当時正統イ
デオロギーとなっていた朱子学における聖人
に至る道を否定している点にある。朱子学で
は心を性と情に分かち性こそ理とする「性即
理」をテーゼとするが、性を発露するために
読書などによって研鑽を積まねばならないと
する。しかるに李卓吾はそのように多くの書
物を読んで道理や見聞を得ると言う研鑽その
ものが「童心」を失わせるとして排し、否定
的に捉えるのである。そして「童心」を失っ
た者が成す文や行動がいかに巧みであろうと
仮(にせ)であって、真なるものでは無いと
する。
〈小社推薦論文〉
金娧希さん博士論文-大阪芸術大学大学院
小村大樹『歴史が眠る多磨霊園』から
〈後記〉
野山獄中の吉田松陰が李卓吾の思想の
影響を受けたのであれば、松陰の尊王
攘夷の思想は、否定されるはずである。
長州・野山獄で自身の死を覚悟した松
陰は、本当は尊王攘夷を超える何か新
しい思想を育んだのではないだろうか。
そして、そのことによって、幕府から
死刑に処せられた、かつ明治政府にも
受け入れられず利用されて薩長土肥の
尊王攘夷思想の先人とされてしまった、
というのが事実、真相ではなかろうか。
また、尊王攘夷の思想すら捨てて明治
政府の重鎮となってしまった松下村塾
塾生に対しても松陰は泣いているだろ
う。高杉、久坂、吉田、入江の四天王
も。大和魂とはいったい何だったのか。
(当講座編集人)
鴫立ってあと淋しさの夜明けかな
(別冊文藝春秋 1978)
当講座記事205から
婉という女・金沢ライブ録音
〈追記〉
当講座記事NO.248から
[小社推薦動画]
2022.11.4 霜月やよいさん
当講座記事NO.240から