406. 街角ルポ
【2025年6月27日配信】
大杉拓弥さんに聞く
リポーター
石川県小松市 永原 百合子
車イスで簡単に入れる店は少なく、捜し
疲れと空腹にしっかり負けてしまい、「え
えい、もうどこでもいいわ」と飛び込んだ
のが小松駅前れんが通りの店・純喫茶「ブ
ルボン」との出会いである。
店内は十五坪、段差はなく、入口も車イ
スがかろうじて通れるくらいの小ぢんまり
とした店である。(昨年秋、改装して入口
は自動ドアになり、車イスも楽に通れ、ト
イレも広くして、3ヶ所手すりをつけてあ
る。)
「車イスの幅は何センチ?」
最初にマスターに投げかけられた実に唐
突な問いであったが、話していくうちに、
マスター自身が障害をもっており、改装を
機会に誰でも自由に入れる店にしたいとい
うことがわかった。
それから半年以上たつが、取材の機会を
得て再び訪ねることになった。
えー……。
「何から話そうてか(笑)」
マスター、この店始めて何年くらい?
「もう十八年たつね。水商売に入ったのは
十九歳の時やから、二十八年間この商売や
ってることになるね」
じゃあ、ずうっと小松のほうで……。
「いや、最初は東京、大阪と……」
それから小松へ? もとから小松の人じ
ゃないの?
「いや、小松生まれや。高校まで小松や。
だからみんなにそんな話すると、結局、小
松におって喫茶店するために東京とか大阪
に修行に出たんかっていうけど、そんなこ
とないんや。この商売入ったのも、入りた
くて入ったんじゃないんや。僕らのそんな
時代いうたら、なんちゅうかな……、ちゃ
んとしたええとこの息子を、お父さんがし
こもうとして修行に出すわけやろ。僕いう
たら、食うために働いとるうちにこの仕事
に入って、いつの間にかこの仕事が好きに
なっていたということやな。
そやけど、今の人らは違うやろ。食うた
めに仕事せんがいね。今は豊かな時代で、
むしろ自分のしたいことのために仕事する
って感じやろ。僕の時代いうたら、食うた
めに必死やったからね。だけど、いいこと
いうたら、自分のしたいことと仕事が一致
すれば一番いいことやな」
そりゃそうやね。
「ね!」
じゃあ、結婚されてどのくらい?
「開店と同時に。十八年になるね」
従業員の人が三人と、奥さんと五人で?
「従業員は一人。もう一人の娘はアルバイ
トで、それと家内と見習いの男の人とで…。
従業員の中田さんも変わった娘でね。あ
の娘にビックリしたのは、以前いわゆるえ
えとこの会社におったんやけどね、そこ辞
めてきたんやな。働きがい、生きがいがな
いと……。自分が生かされる仕事は、ここ
やいうてね。僕らの時代は、少しでも金の
入るとこ選んだのにね。だから、今の人た
ちは違うなあ……とね」
マスターとの出会いは実に偶然やったけ
ど、初めてかわした言葉が、「車イスの幅
は何センチ?」って、あれには驚いてねぇ。
「うん、偶然やね。たとえばね……、心の
障害のある人を精神病者いうて、隔離する
よね。今の世の中に百人しかおらんとして、
百人のうち八十人が心に障害のある人で、
あと二十人が普通やというとしたら、はた
して、どっちが精神病なのかわからん。た
だ、僕らと少し違うだけで、差別しとるん
じゃないかって反省は、たえずあるね。
この間テレビ見とったら、アフリカが、
かんばつでね。全人口四億何千万おる中で
一億五千万人の大人や子供たちが苦しんど
るんやなあ。そやし、ごはん食べる時でも、
『お前本当にごはん食べるだけの価値のあ
る人間か?』って自分に問いかけてみるん
や。ひょっとして自分が食う分、アフリカ
の人たちが食ったほうが、もっといいんか
もしれんし……。
そう思うとむだには生きとられんような
気がして、何か自分にできる仕事があるん
じゃないかと……。人間だから、生きてく
のがイヤになる時もあるわね。けど、そん
な人たちのこと思うと、こりゃただでは死
ねんとね」
マスターは身体に障害をもっておられる
わけやけど、いったいいつから?
「これもズッと先天性股関節脱臼やと思と
ったんやね。そしたら昨年秋、機会あって、
徹底的に調べてもらおうと思って病院行っ
たら、ヘルペスいうて股関節の骨頭の病気
なんやって。悪い形のまま固まってしもう
とるから、先生は治る見込みがないってい
うわけや。
そやけど、治る見込みがない言われても、
僕は落胆せんのや、今となったらね。今ま
でこうしてきてねぇ」
ホントや、急に治ったらどうしよう。
「(笑)だけど、ひょっとして生まれかわ
るとかそんなことがあるとしたら、僕は、
とにかくマラソンを完走したいね」
正直な話、そうやね。
「そうやろ。それから以前東京におった時
に障害者のグループに、まぜてもらったこ
とがあったんやね。その中の女性障害者が
ね、とても明るい人でね。言語障害もヒド
クて……、だけどその人が、今まで人にし
てもらっていたトイレ介助を、努力の末自
分でできるようになったと聞いた時、スゴ
イなあと……。
その人は、ズッと人に頼まんなんわずら
わしさとか、恥ずかしさに耐えてきたわけ
やろ。僕らにはトイレは一人でできるのは
当り前なんやけど、その人は耐えるだけじ
ゃなかったんやね。
その耐えるってことやけどね、人間なん
てズッーと ”耐えて生きろ” ということはな
いと僕は信じるね。今は耐えんなんような
辛いことがあっても、がまんせんとそれを
自分の力で切り開いていくように生命(い
のち)が与えられていると、僕は思うんや
ね。
そやし、がまんばっかりして努力せんだ
ら、その人、ひきょうやと思うんや。だっ
て、自分のしたいことをいろいろ工夫して
やってみるのと、何もせんとがまんしとる
のと、どっち楽やと思う?
何もせんほうが楽しとると僕は思う。そ
んなんやったら、何のために生れてきたん
や。
だから、障害者も遠慮せんと出かけてほ
しいよ。僕がね、街を歩いとると、バスの
中からあいさつしてくるんやね。『あっ、ブ
ルボンのマスターや』ってね。遠くからで
もわかるんやね。僕は相手がわからんでも
ね。だから僕は、『ブルボン』っていう、た
だの看板しょっとるなあと思うね」
じゃあ、これからのマスターの夢とか希
望などある?
「うーん、ホントの夢いうたら、さっきい
うたマラソンを完走することや。これから
の希望いうたら、いろいろな人たちとこの
店で出会うこと。そしてガンバッとる人に
出会ったら、 『おっ、自分もガンバラなあ
かん』 って、元気出るし、悩んどる人に出
おうたら一生懸命生きとる人のこと話して
あげたい……」
マスターは、一時間余りにわたる取材に
快く応じてくれ、このほかたくさんの話を
聞かせてくれました。
従業員の中田さん、アルバイトの福光さ
んにマスターの印象を聞いてみると、
「厳しい人、優しい人、若い!」
という応えが返ってきた。
それはきっと、マスターが、たえずいろ
んなことを考え、挑戦しているからだと、
ふっと思った。
ママ「淳子」さんは、にこやかな人で、
中田さんたちに言わせると、「ひょうきん」
なのだそうだ。
ちなみに「ブルボン」自慢のメニューは、
コーヒーはもちろんのこと、手づくりカレ
ー、ソースたっぷりのスパゲティ。ケーキ、
アイスクリームもマスター手づくりだとい
う。
末記になって、私事ではあるが、店内は
清潔で、「スカッとさわやか○○○○」とか、
「ホット一息○○コーヒー」などという、け
ばけばしいポスターがなくて、ホントにう
れしかったことを記しておきたい。
小社発行・『北陸の燈』第3号より
当講座記事NO.42再掲
第12回「現代の声」講座提言者
テーマ:私を生きる