337. 奥能登の甦りを
【2024年4月20日配信】
ユーモア文芸・輪島段駄羅
石川県輪島市 島谷 吾六
段駄羅(だんだら)なる文芸は、およそ
百五十年もの間他のどこにも存在せず、輪
島市にのみ定着し、多数の作句者を持ち続
けた時期もあり、漆器職場に絶えず笑いの
種をまき散らしていて、日常の生活の伴侶
として親しまれてきたユーモア文芸です。
この段駄羅は、俳句、川柳と同型の十七
文字詩ですが、その特徴は、五七五の中七
を二種の異なる意味に詠み分けられる字句
を工夫選択して句作するものです。故に、
十七文字のうちの上五と中七とで一句、そ
して中七と下五とでもう一句、つまり十七
字のなかに十二字ずつの文句が二句同居し
ているのです。
従って、上五と下五とは無縁なのです。
この段駄羅には「本もじり」と「棒もじ
り」の二種類あり、本もじりは中七の句読
点の位置の異るもの、棒もじりは中七の句
読点の位置の同じものです。
例句「本もじり」
夜遊びにとがしまったで勧進帳
(戸が閉まったで)
(富樫待ったで)
例句「棒もじり」
梅雨明けてそらはれてきた打出傷
(空晴れてきた)
(そら腫れてきた)
本もじりは、ちょっと作句はむずかしい
ですが、音読して妙味があり、棒もじりも
一字でも多く動いているほど佳句なのです。
往時、作句の盛んだった頃は、中七を仮
名文字一行に書き、詠む人これを二種に詠
み分け判読して、ああそうかと了解して楽
しみを分かったものなのですが、およそ三
十年余り、ほとんど句作しなかった時期が
あったため、現在、その様式では通用しま
せんので、創始者には相すまない改悪です
が、詠みの答えを出して、中七を二行に書
いているのです。
さて、この明朗な愛嬌者も、世相すべて
が急テンポを要する時の流れには抗し得ず、
俳句・川柳よりも作句思索に時間を費やす
ためか敬遠されて、今やまさに絶滅寸前の
状態です。故に、ここに段駄羅の起源及び
経路を述べたいのですが、冗漫なれば、閑
話休題。以下に老骨の、消滅するものへの
感傷懐古趣味の段駄羅眼鏡を透かして見た、
勝負の世界の観戦記を報告させていただき
ます。
相撲段駄羅
両力士立つ気になった
生計担った若主人
十五夜の月に雲なく
突きに苦もなく勝ち続け
買い込んでまたもや蔵に
またも櫓に星稼ぐ
炎天に畑枯れたので
はたかれたので前に落ち
悪徳商人取った利凄い
とったりすごい放れ技
玄関の衝立を見た
付いた手を見た行司の眼
野球段駄羅
灰色政治家葬らんかと
ホームランかと空仰ぐ
牡蠣を買いフライにしょうと
フライにショート身構える
難球をよう捕ったので
酔うとったので覚えなし
毛色シャツマダム編んだを
未だ無安打をくやしがり
惜しいかな牽制球に
県政急に替えられず
捕手敏く盗塁を見る
刀類をみる鑑定家
将棋段駄羅
敵は今香突くだろう
今日着くだろう荷物待つ
新年の慶賀うれしや
桂が嬉しや王手飛車
手持駒金桂と角
謹啓と書く書簡文
歩を打たれ角死にかかる
隠しにかかる裏資金
逃げ込んでかくまってくれ
角待ってくれヘボ将棋
児が甘え負うて負うてと
王手王手と攻め立てる
泉水の鯉に麩をやる
故意に歩をやる序盤戦
小社発行・『北陸の燈』第4号から
当講座記事NO.20再掲
〈参考〉